小項目「仔ライオンお散歩中」

星のヘアライン青中

  

写真「仔ライオン」

  
  


 

  


 動物園や、サファリパークに通っていると、望外の出来事に出逢うことがあります。それは、仔ライオンの散歩に出くわすなんてことかもしれません。

 この日、サファリパーク内のウォーキングゾーンは、夏休み前の平日ということもあり、空いていました。

 こういう日、催しものは劇的に減りますが、そのぶんゆったりと園内を楽しむことが出来ます。普段私はイベントを開催する立場なのですが、スタッフも人の子。忙しいと、当然多少は余裕が無くなってしまいます。お客さんも、混雑していると、それだけで不快指数が上がっているので、相乗効果で殺気立つこともあります。

 私は先日、自分が働く施設で、お母さん風のお客さんに、「あなた!うちの子通った!?」と突然迫られました。「ウチノコ」と「ツチノコ」の違いを1秒ほど考えた後、とりあえず「お子さんの特徴は?」と聞き返すと、「もういいわよ役立たず!」と怒鳴られました。呆然と立ち尽くす役立たずなワタシを、他のスタッフが「…交通事故みたいなもんですから気にしない方がいいですよ…」と、慰めてくれました。

 この手のことは、珍しいことではありません。お母様たちは、泣く子をなだめながら、大荷物での移動。本当に大変です。イライラするのも当然でしょう。列が延びたりすると、お客さん同士のトラブルも増えますしね。ちなみに、私が役立たずだったケースには後日談があります。先ほどは鬼の形相だったお母さんが小学校1年生くらいの子どもと連れているのを見つけたので、「ああ、お子さん見つかったんですね。よかったですね」と声をかけると、「申し訳ありませんでした」と花が咲いたような笑顔を返してくれました。…悪い人では無いのです。そういえば私の母も、タクシーに乗って、「うちまでっ!」と言っていました。ママン、運転手さんは、うち分からないよ。余裕をなくすと、人は魔物に取り付かれるのです。この魔物は凶悪で、スタッフだって取り付かれることがあります。気をつけないといけません。

  その点、平日は良いです。特殊な施設で無いかぎりは、繁忙期と閑散期というのははっきり分かれます。特に屋外施設は繁忙期の喧騒も楽しみではありますが、閑散期には閑散期の良さがあります。何たって、スタッフもお客さんも、全体的にのんびりしています。お母さんが探し回る前に、スタッフも不安そうな子どもに気づきます。「うちの子通った?」といきなり言われても、もしかしたら、

「ああ、ゴジラのぬいぐるみを着て焼きそばを食べていた男の子なら、3分ほど前に通り、あちらへ行きましたよ」と答えられたかもしれません。飼育員さんたちも、インストラクターさんたちも余裕を持って、説明してくれますし、質問をしても間が悪く無ければ、丁寧に答えてくれます。


 
   イラスト ツチノコとなのナギ  
   さて、そんな、人より動物の方が圧倒的に多いであろうサファリパークのウォーキングゾーンで、ゆったりと流れる時間を満喫していると、遠方に、ミニチュアダックスのような動物を連れたお兄さんがいました。私は、あらまあこのお兄さんは、素敵なツナギを着て、良さそうな青年なのに、規則を知らず、ミニチュアダックスを連れてサファリパークに入ったのねと、ちょっとびっくりしました。またそのミニチュアダックスはどうにもしつけがよろしくなく、まともに歩かず、リードに自らからまっては転げ周り、齧り切ろうとしています。しかも飼い主らしきツナギの好青年は、叱ることなく、ミニチュアダックスがじゃれるに任せています。犬のしつけは小さいうちにしっかりしないと、後で苦労するのにと、大型犬でそれを味わった私は、興味を持って、近寄ってみることにしました。

 そのミニチュアダックスは、リードにじゃれながらも、がるるがるる。んーぐるぐる。と仔ライオンのような唸り声を出しています。顔も、ミニチュアダックスとは程遠く、まるで仔ライオンのようです。手足もぶっとく、…どう見てもこれは仔ライオンです。よく見れば、飼い主と思われた青年のツナギには、サファリパークのロゴが入っています。

「仔ライオンのように見えますが、気のせいでしょうか」
飼い主さん、もとい、飼育員さんに問うと、余裕の笑顔で、いいえ。仔ライオンです。と明瞭に答えてくれました。

「ええと、今いったい、何をなさっているのでしょう」
その場の、数人の人たち誰もが思っていることを、私が代表して質問します。飼育員さんは、やはり笑顔で簡潔に答えてくれました。
「散歩です」

 色々聞きたいことはありましたが、まず…。
「…写真を撮ってもいいでしょうか」
「どうぞどうぞ」

 
  写真 仔ライオン
 写真 仔ライオン
    「これは、何かのイベントか、プログラムですか?」
「いえ。ただの散歩です」
「お客さんを喜ばそうというパフォーマンス…」
「いえ。ただの散歩です」

 何てことないような飼育員さんの答えに、何となくしつこく聞くことは憚られました。動物のご機嫌とタイミング、施設の方針、担当飼育員さんの考え方、そして、運によって、こんな出会いは往々にして訪れてくれます。そして、そんな幸運に恵まれると、それまでよりずっとその施設や、その動物が好きになります。

 実は、この手の邂逅は、意外とちょくちょくあります。動物の移動、出産、散歩、求愛行動、子育てなど。動物も生きているし、動物園や、水族館も生きていますから。だから、何度行っても楽しいんですね。




 このお散歩は、何年か前の話です。ですので、ご迷惑がかからないよう、一応施設名は意図的に伏せさせていただいています。現在、この時の仔ライオンは、サファリゾーンで元気に過ごしているでしょう。

 
   

写真 大ライオン近影
 
 同じサファリパークで先日撮影したばかりの大ライオン。ほんとに、群れの中のどこかに当時の仔ライオンがいると思えば、何だか不思議な気がします。♪(*^-^*)
 
 2009/12/1 脱稿 

星のヘアライン

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