小タイトル「出逢ってしまったわけなんです」

星のヘアライン

 

 先代のうさぎが亡くなって、何ヶ月か経った初夏、私は友人と一緒にうさぎ専門店に立ち寄りました。飼うつもりではなく、ペットロスのリハビリがてら、「見てみよう」というスタンスでした。

 うさぎ専門店の、仔うさぎの大部屋に、ひときわ目立つ、白兎がいました。何が目立つと言って、一匹だけ白かったこともその理由のひとつでしたが、それより何より、…なんだかとても偉そうだったのです。

 その仔ウサギは、何故か牧草入れの上に乗っていて、それは小鳥が枝にとまっているように見えました。居心地は決して良く無いだろうに、無理にそこにいる姿は、一段高い玉座に君臨し、他の仔うさぎに権威を示しているかのようにも見えました。

 
   
   写真「牧草入れでくつろぐ仔うさぎ」  2009/10/1脱稿

 うとうとしていたその仔うさぎは、私が指を近づけると、ぱちりと大きな黒い目をあけ、私の指に顔をぐいぐいと押し付けてきます。ずいぶんと人懐こい仔うさぎで、触って欲しくてたまらないようでした。

 よく見ると、真っ白ではなく、耳や、しっぽ、鼻先などがうっすらグレイでした。全体が白く、シールポイントがあるというのは、私の最も好きな動物の配色です。

 ここで、初めてうさぎ選びをする方に、僭越ですが、アドバイスをさせていただきます。毛色を始め、外見を第一条件で選んではいけません。うさぎは、種類や固体によって、性質が大変異なります。生活環境や、自分に合う性質の仔を選ぶことの方が、毛色よりもよほど大事です。

 …とか何とか言っちゃって、それでも、衝撃的に「出逢って」しまえば、何もかも吹っ飛んでしまうのが人情というもの。どんなに予定外でも、「出逢ってしまった」と感じれば、それは、運命なのでしょう。

 この時私は、もう少し、先代うさぎの喪に服していようと思っていましたし、ペットがいては気軽に出来ない旅行をしたいとか、ネザーランドドワーフラビットはやんちゃだから今度も飼いやすいロップにしようとか、新しい仔を迎えるにしても、暑さ寒さに心配の無い季節にしようとか、
…まあ、色々考えていたわけですが。

 おそらくは私の目がぐるぐるしていることに気づいた友人が、店から私を引っ張り出しました。

 「別に止めないけどね。ともかく一度落ち着きなよ。駅前のファミレスでご飯を食べよう。そして、ちゃんと考えてからにしなさい。大人なんだから」

 たしかに。友人の言うことはもっともで。私は大人で、思いつきで動物を家族に加えるわけにはいきません。大人な私は、味の良く分からないままご飯を食べ、落ち着いてちゃんと考えたつもりになって、うさぎ専門店に早足で引き返しました。

そして、わずか数分後。

大人な私は、不安と喜びと、飼う予定の無かったネザーランドドワーフの仔うさぎを抱え、家路に着きました。

「ま、こうなると思ったんだよなー」

友人は、苦笑いをしていましたが、続けられた言葉は、冷たいものではありませんでした。

「ビデオのバッテリー大丈夫かな。家について、箱から出す時写真撮ろう。…新しい仔の、記念になるように」




 …新しいペットを迎えるということは、亡くなったペットを、きちんと想い出にしてあげることだと私は思います。膿瘍という業病を患った先代うさぎの最後の1年は、正直、壮絶なものでした。でも、この仔うさぎが、辛かった思い出を、ゆっくりと、優しく、温かいものに変えていってくれます。きっといつか、楽しかったことしか思い出さなくなるでしょう。


 もっと楽な終焉を迎えさせてあげたかった。最後にもう一度抱きしめたかった。…そんな後悔や、苦い気持ちは、今もどうしようもなく胸にあるけれど…。8年もの間、一緒に過ごしてくれてありがとう。うちに来てくれてありがとう。ずっと大好き。やがて、そんな柔らかい気持ちだけで思い出せるようになっていくのでしょう。

 うさぎ専門店からの帰り道。箱の中で、小さな生き物が、怯えて震えるどころか、たくましく牧草を食べ続ける音がしていました。仔うさぎは今、確かに、力強く生きています。そのぬくもりを抱えていると、そんな日が遠くないことを、確信できる気がしました。

 写真「箱から出てくる仔うさぎ」

 写真「箱から出てくる仔うさぎ2」

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