小項目「アンドロメダ星雲?銀河?」

星のヘアライン

  

 元始女性は太陽であった。

そして、元始SFトラベラー物の目的地は、「アンドロメダ星雲」であった。

なーんちゃって。

でもね。最近では「アンドロメダ銀河」と呼ばれることも多いようですよ?
どっちが正しいんでしょうね?

  
  写真「M31」  
 
  アンドロメダ星雲(M31もしくはNGC224)は、30代以上の方が、幼い頃見ていたSFマンガやドラマに頻繁に登場し、常に重要な役割を担っていました。


肉眼で見える最も遠い天体であり、最も近い形外銀河ですから、重要な役回りが与えられるのは、納得の配役です。

まあ、煩く言えば、肉眼で見える、という定義は視力にもよりますので、あくまでも一般論です。「最も近い」かどうかも、マゼラン銀河のような、銀河系のお伴の銀河を入れてしまうと違う答えになるわけで、いやあ天文の定義って難しいですね。

 しかし、アンドロメダ銀河の姿を見てしまうと、どんな理屈もふっとばし、その存在感に圧倒されます。

こりゃあ、古今東西歌や物語の舞台となるにふさわしい姿である、と納得しないわけにはいきません。

女王様がいてもおかしくなさそうですし、機械の身体がもらえそうな気もします。
そう言えば、ロバート・ワイズ監督のフィルムで「アンドロメダ病原体」という名作もありました。原作のマイケル・クライトンさんは、ジュラシックパークの作家ですね。

サイボーグ戦士が女王様を救おうと戦い、10億光年の愛(テーマ曲)を誓ったりもしていました。

どちらも古い映画ですが。

 
   はてさて、メシエカタログでは、M31とナンバーが振られているこの天体。230万光年彼方に位置し、直径およそ10光年、恒星数およそ2千億個という規模の渦巻銀河です。先に述べたように、我らの天の川銀河、銀河系と良く似ていますが、比較すれば、ちょっと大きめであると考えられています。

次第に銀河系と接近していますので、10〜100億年くらい未来には、銀河系とぶつかって合体するかもしれませんし、ニアミスし、お互いの重力の影響で、形が崩れるかもしれません。

現在では、、そこまで分かっているわけです。



 近年の観測技術の進歩は、おそらくは一般の方が想像されるよりずっと劇的です。
最近では(2010年4月)ベテルギウスや、ぎょしゃ座ε星という恒星についてまで、今まで、所謂「説」だった事柄を、次々と確認観測するに至っています。

つまり、逆を言えば、ちょっと前には、色んなことが分かっていなかったのですね。例えば、星雲と銀河の区別とか。また、その定義も曖昧だったという事実もあるのです。

 手元にあった、昭和58年発刊の、「天文・宇宙の辞典」(恒星社)を見ると、しっかり、
「アンドロメダ星雲」と書いてあります。
ただし、この時点で、まだ銀河であるということが分かっていなかったわけではなくて、ガス雲や、恒星の混じっている天体を、「銀河」と呼ぶ習慣が定着していなかったように感じます。
もしくは、古き馴染み深い呼び名に、拘ったのかもしれませんね。


 対しまして、こちらは、M42。所謂オリオン座大星雲です。

 
写真協力
M31:同僚T.T
M42:同僚M.H
Thank You
2010/4/25脱稿
写真 M42オリオン座星雲

 キレイですよね。

アンドロメダ銀河同様肉眼で見られる星雲です。ちっちゃな双眼鏡でも、白い鳥が飛ぶような姿が分かります。

星のゆりかご、とか星の製造工場とか言われることもある、今まさに、たくさんの星が誕生している最中のガス雲です。


 ただし、星雲ですから、M42を目指して宇宙旅行をしたとしても、機械の身体はもらえなさそうですし、女王様も期待できません。銀河系内の天体で、距離は1500光年ですから、SFトラベラーものの目的地としては、ちょっと中途半端に近いようにも思えます。

また、ガス雲ですから、ここに知的生命が誕生するには、まず既に観測されている原始惑星系円盤が育つのを待たなくてはいけないので、言葉遊びのようですが、SF的スケールの未来でないと、発想すら難しいわけです。

 ひきかえ、「銀河」というのは、そもそも恒星集団ですから、その中には太陽に良く似た恒星がたくさんあるかもしれません。
そのうちの幾つかは、惑星系を持っているかもしれませんし、そしてそのさらに幾つかの惑星は、ハビタブルゾーン、つまり水が存在する領域に位置しているかもしれません。
さらにそのうちの幾つかには、知的生命が育ち、高度な文明が築かれているかもしれないわけです。

畢竟「星雲」と、「銀河」では、SFにおける役割が違いますね。


 そもそもこうした天体の呼び名は、意外かもしれませんが、厳密に言うと「正式名称」ではありません。
あくまでも「通称」です。

ちなみに、先に挙げた文献のわずか数年後に発刊された、「星百科大事典」(地人書館)には、「アンドロメダ大銀河」と表記されています。そういえば、「アンドロメダ大星雲」という言い方もありますね。

こうした揺らぎが無いようにということもあって、Mとか、NGCとかのカタログナンバーがあるわけです。

実はこれ、星の固有名でも同じようなことが言えます。織姫星、ベガも、天文学的に間違いの無い表記は、「こと座α」になります。

まあ、この辺りは長くなるので、また項を改めましょう。


 つまり、「アンドロメダ星雲」という呼び名にノスタルジーを感じる方は、別にそちらを使ってもいい、ということになるでしょうかね。

そもそも、ちゃんとした正式名称が無いわけですから。

 この件に関して、十数年前、私が働く施設の天文スタッフで相談したことがあります。
つまり、「あの子さー、どう呼ぶー?皆で決めないー?」と。
真面目な話、人によって、呼び名が変わるのは良く無いですし。

結果は、「アンドロメダ銀河に統一」に万票一致でした。


 ちなみに、M42、オリオン座大星雲を、オリオン座銀河、と言えば、それは間違いです。なぜなら、M42は銀河では無いからです。そう考えると、逆説的ではありますが、天文科学重視の立ち位置であれば、M31の呼称は、2010年現在、アンドロメダ銀河、とするべきであると言えるかもしれません。

なぜなら、M31は、銀河だからです。

是か非か決めましょう、という判断に迫られた場合、サイエンスのライターや解説員、指導員は、アンドロメダ銀河、と決することになるでしょう。

私が子どもの頃の発刊物は、ほぼ全て「アンドロメダ星雲」もしくは、「アンドロメダ大星雲」でしたから、こちらの表現に、何ともいえないロマンを感じるのは事実ですけどね。


 では、サイエンスフィクションの場合は?

 SFと言えば、1898年には、イギリスのSF作家ウェルズの小説「宇宙戦争」が大ヒットしました。 火星人が地球に攻めてくるというラジオの企画をきっかけに、パニックが起こったそうです。

ほんの100年ちょっと前には、多くの人が、火星人がいると思っていたわけです。

人類の宇宙に関する知識なんて、まだまだまだまだまだまだまだ発展途上もいいところなんですね。

これからもいくらだって名称の変更はあるでしょうし、それこそが、科学が「生きている」証かもしれません。


 
イラスト「ウェルズの火星人」
※ こういうの描くのキライじゃないんですがー、これに関しては、足の構造に自信がありませんー。
どうしてもこの状態で立てるような気がしない…。


 ノスタルジーを感じ、古い名称に固執したい想いも分かるし、速やかに前進すべし、という考え方も分かります。
同じような懊悩は、冥王星が惑星の定義から外れる時にも感じました。

難しいところですね。

 とはいえ、実際にかの天体を仰ぎ見れば、その壮麗さに打たれ、ま、いいか、と思えてしまいます。

アンドロメダ銀河が、これからもずっと、古代エチオピア王国の王女アンドロメダ姫の腰を飾り、夢と憧れのSFワールドの舞台であり続けることは間違いありません。

 イラスト「往年のSF漫画のコスプレナギなの」
 

 今から例えば10年後、子どもたちのヒーローの旅の行く手は、はたして「アンドロメダ銀河」なのでしょうか。それとも、今しばらくは、「アンドロメダ大星雲」も生き残るのでしょうか。

文化伝承とは如何に行なわれていくものか、しばし成り行きを見送りたいものです。

 どこかの機関がイニシアティブをとって、名称の統一を図らない限り、呼び名の移行は、おそらくとても緩やかなものでしょうね。





 ちなみに、私たちの銀河系のことも、最近、国立天文台が「天の川銀河」という呼び名を勧めているようですので、よその銀河どころか、おらが銀河の名称も変わっていくかもしれませんよ。

こちらはもっと時間がかかるでしょうけれど。


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