小項目タイトル「或る夜の思い出」後編〜ナギ語り〜
〜ストーリー:「或る夜の思い出」 後編 ナギ語り〜

星のヘアライン

「ダメだ!」

オレは根性で正気を手繰り寄せ、体内の血をアドレナリンで補って(つもり)叫んだ。

「違うフェムト、この子は悪くない!」

言うと同時に、オレは自分の身体をフェムトから引き剥がし、無理やり立ち上がると、フェムトの頭を殴りつけた。
そして、またふっと気が遠くなり、倒れ掛かるオレを、慌ててフェムトが支える。
困惑した青い目が、間近にあった。

「…じゃあ、誰が…」

剣呑に響くフェムトの声に、正直腹が立った。
みっともなく草むらにしゃがみなこみがら、オレはもう一度目の前のフェムトの頭をぽかっと殴った。

「誰が悪いか言えっつーなら、お前だお前!」

フェムトは、訳が分からないと、眉を寄せている。

「あ、あの」

少年が漸く口を開く。

「フェムトが帰ってから、学校で結構騒ぎになっちゃったんだよ。僕、ちゃんと事情を話せなくて…。
勝手に皆が、フェムトが暴れて、僕を階段から突き落としたみたいな話に仕上げちゃったんだ。僕…」

「…」

つまり、フェムトは、騒ぎになったことすら知らなかったわけか。
むしろ、怪我したのは自分だけだから、自分が文句を言わなければことが荒立つような状況にはならないと高をくくっていたのだろう。
状況を掴めないようで眉をひそめている。

「僕が皆に、ほんとのことを、ちゃんと言うから…」

…なんかこの子、オレに対する態度と、フェムトに対する態度が違わないか?フェムトがオレに向き直った。

「…で?何でナギがケガしてんだ?」

ま、当然の疑問だよな。

「僕のお父さんが…」

少年の言葉に、瞬間湯沸かし器のように、フェムトの周りに物騒なオーラが立った。
すかさずオレは、またぽかっとフェムトを殴る。

「お前落ち着け。ほんとに。
このケガはオレが自分から負ったんだよ。
面倒事を順序よく収めようとすると時間もかかるし、嫌な思いもする。それでも上手くいかないこともある。
オレは自分の判断で、それを一瞬で終わらせる手段を取ったんだ。その子も、その子のパパも悪くな…」

簡単に息が上がり、世界が回る。

「わ、分かったからナギ、ちょ、ちょっと座れよ」

血がついてるところ以外は全く血の気の無い顔で、ふらふらしながらまくし立てるオレを、フェムトがベンチに座らせ、背もたれに寄りかからせた。
それでも眩暈と吐き気が収まらない。オレは仕方なく目を閉じたまま、ゆっくりしゃべった。

「…フェムト、…その子は、オレの傷の、…止血のために、自分のタイを、差し出してくれた。
…いい子だよ。お前だって…、分かってるから、助けたんだろ」

「…」
「フェムト、ごめん。フェムトのお兄さんも、ごめんなさい」

少年の涙声が聞こえた。頼む。フェムト。何か言ってやれ。
…言ってやってくれ。

「…オレ、…何を間違えたんだ…?」

 薄闇にフェムトの、途方にくれたような呟きが落ちた。
フェムトは不器用なだけで、元々全く悪気は無い。
他人との付き合いは苦手だけれど、人が嫌いなわけでは無い。
フェムトには、この子の好意そのものも伝わってないのだ。フェムトにしてみたら、同級生のグループとべたべたつるむつもりもなく、かといって、余計なトラブルを招きたくないから、出来るだけ関わらないようにしているつもり、だっただけなのだろう。

「フェムトは…悪くない。僕が悪いんだ…」

少年が震える声で言い募る。

「僕は、フェムトと…」

 少年が言いよどむ。
しっかりしろ少年。
この続きの言葉は?と100人に聞けば、99人が「友達になりたかっただけなんだよ」と答えるとしても、フェムトは、残りの1人なんだ。
想像を絶する朴念仁なんだ。ちゃんと言わなきゃ分からないんだよ。

 オレの思いとは裏腹に、沈黙が続き、案の定フェムトが戸惑っているのが分かる。
やっぱり、オトナとして、オレが二人の手をとって握手させたりするべきなのか…?

…難しい。
目も開けられない現在の体力の問題もあるが、まあ、メンタル的に…。

すると、少年が、いかにも、キレたように、突然怒鳴るような語調で、言った。

「僕は、フェムトと、時々話がしたいんだ!」

 …なんかちょっと中途半端だけど、まあよく言った。少年。
でも、その表現でフェムトに伝わったかどうかは微妙なとこだ。
少年の荒い息遣いが聞こえる。

「…フェムトが、さっき、お兄さんを抱えて、すごく怒った顔して僕のことを見た。
…やっと、本気の顔で、僕を見た。怖かったけど…やっぱり、僕、フェムトのことを、もっと知りたいと思ったんだ」

よし!今度はいいぞ。これなら伝わるだろう。
…たぶん。
フェムト?何か言え。早く。
かわいそうじゃないか。


 川の音しか聞こえない夜の世界で、漸く聞こえたフェムトの声は、話の内容とは関係ないものだった。

「見ろ!」

ああ!?突然のフェムトの大声に、さすがのオレも咄嗟に目を開けた。瞬間、消えかける明るい流れ星が見えた。

「おっきい流れ星だ…」

少年の、呆けたような声が聞こえた。

「今のは火球だ。痕(こん)も残ってる」

フェムトが素っ気無く言い切った。少年のキョトンとした顔を見て、慌ててオレが説明を補足する。

「マイナス等級の流れ星を、火球ということもあるんだよ。
痕、と言われる雲のようなものが長い間残ることもあるんだ。
ほら、薄れてく…」

「あ、ほんとだ。何だか花火のあとみたい…」

少年の、素朴な感嘆の声に、胸が温かくなる。

「稀に、音がすることもあるんだぜ」

珍しくフェムトも口を挟み、少年が嬉しそうに、へえ、と反応した。

「…」

 あれ?何の話をしてたっけ?随分緊迫していたような…。
三人ともがそう思ったようで、瞬間沈黙が降り、そして…、三人見合わせて、ちょっと笑った。

「あー…、僕、フェムトが笑うとこも、初めて見たよ…」

少年の嬉しそうな声が、また目を瞑ったオレの耳に届いた。
きっといい顔をしているんだろう。見られなくて残念だ。

「…そうか?」

フェムトの気の無い声、

「うん。もう、いいや。僕、帰る。流れ星、見られたし」

吹っ切れたような、明るい声だった。

「…話すくらいなら…」

フェムトがぼそりと呟いた。

「え?」

少年が立ち止まって振り返った。

「俺、あんまり集団で集まったりとか…、苦手なんだ。でも、話す、くらいなら…」

「うん!じゃ、明日、学校で!」

 …明るい声だった。
残念ながら、オレは目を開けていられなくて、去っていく少年の後姿を見送ることは出来なかった。
恐らくは照れくさそうにしているだろうフェムトの姿も…。


 情けないことに、オレはそのまま気を失った。

  
 


 

 ケガをしたフェムトが帰ってきたことに始まった一連のごたごたが、やっと終わったのだという安堵感と、家族の体温が側にある安心感で、気が緩んだのだろう。

 時間にすれば、たぶん2、3分。オレは夢を見た。
…もう10年も前の出来事だ。あれは随分辛い日だった。
手術室に消えたオレの小さな妹。命をかけた、大きな手術だと聞かされた。
考えてみればオレも10歳やそこらだったから、親父の説明に動揺し、本当にこれきりなのと会えなくなるのではないかと、不安に震えていた。
どうしても涙がこぼれそうになり、横を見ると、何が起こっているのか、理解しているはずもない幼いフェムトと目が合う。


「お兄ちゃん、なのは、だいじょうぶなのか?」

ああ、オレがしっかりしなくちゃ。
オレは、フェムトの小さな身体を引き寄せて抱きしめた。

「だいじょうぶだよ。フェムト。これからお前はおうちで、なのの帰りを待つんだよ。
おばさんも後で来てくれるって。朝になったら、オレ、迎えに行くから」

「おれもここにいる」

フェムトが、口を引き結んで、オレの手を痛いほどに握り締めた。

「ダメだ。フェムトはおばさんといなさい」

 側にいた親父のバリトンが響いた。
親父にしては、ずいぶん優しい物言いではあったが、フェムトは親父の顔を反抗的に見上げる、でも、フェムトの、透き通った青い目には、溢れそうに水がはっていて、涙が落ちないように、健気に目をいっぱいに瞠っているのが切なかった。
オレは、フェムトの顔を両手で包んで、言い聞かせた。

「いいかい?フェムト。なののために、頼みがあるんだ。オレとお父さんはここでなのを見守るから、お前はうちで、やってほしいことがあるんだ。それは…」

…思い出した…。
ああ、そうか。そうだった…。
オレ、そんなことも忘れていたのか…。
手術が成功して、なのが元気になって、嬉しくて…。

こんな大事なことを、忘れてしまっていたのか…。
幼かったフェムトにとって、この事がどれほど大きな事件だったのか、考えれば分かるはずなのに…。

 イラスト「ベンチのナギとフェムト」
  子守唄のようだった川の音を遮るように、携帯の着信音が響き、オレは現実に還った。
夜の河川敷はさすがに寒いけれど、右側が暖かいのは、フェムトにもたれているからだ。
おかしい。
こいつさっきまであんなに小さかったのにと思ってしまい、自分の思考の混乱に気づく。

…まだ頭が上手く回らない。

 着信音は、オレのバックからだ。フェムトが、オレを気遣いながら、バックをあけ、音源を取り出すのが分かった。

「…ちがう。うん。俺」

フェムトの口調で、電話の相手がなのだと知れる。

「…うん。ナギと一緒。…うん。兄貴ケガしてるから、手当ての準備しといてくれ。…病院は駄目だ。きっと嫌がるから…。いや、俺じゃなくて、ナギが嫌がるって。…うん。…だと思う。ん?タクシー?うん。呼ぶよ」

 遠慮の無さと、優しさを併せた、穏やかな口調。フェムトが、なのと話す時だけに使う、独特の声音だ。…本人は無意識だろう。

 オレは何とか身体を起こそうと身じろぎした。フェムトがそれに気づき、こちらを向いた。
アイスブルーの瞳が夜を映し、深い色を帯びている。
この真っ直ぐな目だけは、小さいころと少しも変わらない。

「…ナギ。大丈夫か?」

いたわる口調に既視感を覚えながら、オレは夢の続きを確認しようと、重い口を開いた。

「フェムト…、オレがお前に言ったのか…?
ふたご座流星群を見ろって…。
なののために…。ふたご座流星群の流れ星に、なのの無事を祈ってくれって…。
オレが、言ったのか…?」

フェムトは、唐突なオレの言葉に、驚いて絶句している。

「フェムト…。あの時…。おまえと、なのは5歳で、なのが大きな手術をすることになって…。
おばさんと、家にいるのは嫌だって、病院にいるって、言い張ったおまえを説き伏せようと、オレ…」

どうにもたどたどしい口調になってしまう。まだ頭が朦朧としているのだ。

「オレと、親父は、病院でなのを守るから、おまえは、家で、流れ星に、なのの無事を祈ってくれって…、オレ、お前に、言った…?」

幼いフェムトは、あの時、重要な任務を命じられた兵士のように、真剣な表情で、うん、と言った。

いくつながれぼし、見つければいい?

フェムトは、思いつめたような顔をして指令を待つ。

3つ。

オレも真剣に答えた。その日は晴れていたし、ふたご座流星群の極大予想日だったから、子どもでも3つくらいなら、何とかなるだろうという思いもあった。しかし、フェムトは…、

「おれ、10こみつける。かならず。そうしたらなのはたすかる」

そう宣言した。

力のある、綺麗な目だった…。

「もしかして…あれからおまえ、ずっと、オレが言ったことを…?」

 フェムトは、オレの顔を見て、右を見て、左を見て、口を開けて、また閉じて、もう一度オレの顔を見て、視線を泳がせた。
困りきった顔だった。
じっとフェムトの顔を見つめるオレに、観念したように、もう一度口を開いた。

「……違う。ナギに言われたからじゃない。…ゲン担ぎだよ…。
ふたご群の流れ星を、10個見ないと、なんだか、気持ちが悪いんだ…。なのに…」

言葉を切って、更に言い難そうに続ける。

「…なのに、何か、良くないことが起こりそうで…」
「あれから、ずっと…?」
「…ああ」
「曇りの日が続いても…?」

「…極大が終われば、極端に流星の数は減るけど、見続ければ、…10くらいは見つかる」
「…10年近くも、そうやって、なののために、流れ星を探したのか…?」
「…悪いか…?」

フェムトは怒ったようにそっぽを向いてしまった。

「まさか。…オレの弟はなんていい子だと思ってたんだよ」
「バカ」
「や。本気でさ」
「…あんたの中じゃあ、オレは今もオムツしてんだよな…」

フェムトが、心の底から嫌そうにため息まじりに呟いた。
別に子ども扱いしているつもりは無いけれど、仕方ないだろ。
お前のオムツを一番替えたのは、親父でも、おばさんでも無い。オレなんだから。

「タクシー呼ぶぜ。立てるか?兄貴」
「…あと幾つだ?」
「…?」
「流れ星。10個見つけたのか?」
「…いや。あと4つ。後は夜中に探す」
「いいじゃないか。ここで見て行こうぜ」
「…でもナギ、怪我は?」
「こうして座ってりゃ大丈夫。
それにお前、夜中に抜け出すなんて宣言されて、オレがいってらっしゃいとでも言うと思ってんのか」

「…ほんとに大丈夫なのか?」
「ああ」

実際、大丈夫だった。
傷みはあったが、耐えられないほどでもなく、吐き気も大分おさまった。
先ほどまで感じていた寒さも、近くにフェムトの温もりがあるせいか、ほとんど気にならない。

「あ、飛んだ。放射点近く」

フェムトの声に、目を開ける。ふたご座流星群らしい明かるい流れ星だった。

「極大過ぎてるのによく飛ぶな」
「最近、ふたご群て、二回極大があるって説もあるらしいぜ」
「ふうん。HR50行くかな」
「さすがにそりゃ無理だろ。でも昨日、ZHRは100近く行ったらしいぜ。あ、また。地平線近く。…散在流星かな?」
「や。放射点から遠いだけで、群だよ。角度は合ってる。幾つめ?」
「8つ」
「あと2個かー」
「あ、9個目!」

  



 

 …ひと気の無い河川敷。あたりに街灯はあるものの、それほどには気にならない。
月もなく、快晴の冬の星空は、町中としては中々の見栄えだった。
…何気ない会話。この瞬間を忘れないようにしようと思う。
フェムトとふたりで、なののことを想いながらふたご座流星群を数えた、この夜を大切にしよう。


 …フェムトは、そう遠くない未来、家族のもとを去っていくだろう。
…それは、親父との関係がうまくいかないとか、家が狭いとか、束縛が鬱陶しいとか、そういう次元ではなく…。
弟の目が、この小さな町の、遥か遠くを見つめていることに、オレは随分前から気づいていた…。
羽ばたき、飛び立とうとする雛を、巣に留めることなど、オレには出来ない。
膨大な量の本を読み、何だかいつも調べ物をして、フェムトはいつも、違う世界を見ている。
オレの命とも言える弟が、オレから離れていってしまう。
いつか確実に訪れるその日のことを思うと、心臓を掴まれるような痛みを感じる。
でも、オレは、その後ろ姿を黙って見送ることしか出来ないのだ。

 身体が弱く、普通の社会生活が難しいなの。不器用で、誤解されやすいフェムト。
このふたりを真に理解しているのは自分だけだと思う。
守ってやるのが自分の役目だと思う。

…何を捨ててもいい。
何もいらない。
側で、守り抜いてやれるなら、他に何もできなくていい…。


家族を、自分のもののように感じる暗い愉悦。
それが思いあがりであると、オレだって本当は分かってる。

 なのにしてもフェムトにしても、いつまでも庇護が必要な子どもではない。
なのはもちろん、フェムトだって。
今回の少年がそうだったように、フェムトが隠している美しい魂にこそ惹かれ、寄り添おうとする誰かは、きっとこれからも現れるだろう…。

それを心から嬉しいと思う。誇らしく思う。
と、同時に一抹の寂しさを感じる。
オレの中にある矛盾した想い…。

目の端に、つ、と、星が流れた。

「…見たか?」
「…ああ」
「ナギ、今ので、10個だ」
「…うん」
「…な。兄貴、も一個見つけるまで待てるか?」


フェムトが、オレの顔を覗き込みながら言った。

「大丈夫だよ。好きなだけいればいい」
「いや、あと一個で十分」

 11個目の流れ星は、この空間から離れがたく思うオレの想いに応えるかのように、中々現れなかった。
オレは今まで、流星観測はさんざんしたけど、流れ星に願いをかけるなんてファンタジックなことを、実は一度もしたことが無い。
でも、今日は、やってみようかと思う。
なのの事ばかりを祈っていたという、不器用な弟のために。

…フェムトの、願いが、叶うように…。

それがオレから、大切な弟を奪うものであってもいい。

行きたいところへ行けばいい。
フェムトの未来に、フェムトの求めるものがありますように…。

オレは一心にそう願い、透明度の高い空を見ていた。

すると、程なく。

「…ナギ、今の見たか?」
「うん。マイナス等級だったな。途中で分裂した…」

一瞬、あたりが明るくなるような流れ星だった。分裂し、二股に分かれ、なおも明るく輝いた。
まるで、オレの願いが届いたことを示すかのように。
フェムトの前途を明るく照らすように…。

「よし。じゃ、タクシー呼ぶぜ」

オレの返事を待たずに、フェムトは携帯のナンバーを押している。11個目の流れ星に、フェムトが何を願ったのかは分からない。でもそれはきっと叶うのだ。今日一番明るい流れ星が、オレにそう告げたように思えた。

 …それからの記憶は、みっともないことに、少しぼんやりしている。
タクシーに乗り込みながら、オレはフェムトに、

おまえの願いは叶うよ、と言った。

 フェムトはちょっと眉を顰め、動作を一瞬止めて、睨むようにオレを見た。
オレが、流れ星に何を祈ったのか、察したのだろう。あきれ果てたような顔をして、深いため息をついた。

ほんと、バカな兄貴だな。

フェムトがオレを奥に押し込みながら、ぽつりと呟いた。

 タクシーの中で、オレは後部座席に横になった。気分は悪くなかったのだが、少し朦朧としている。
目を瞑ると、ふわふわと漂うように眠りに落ちてしまいそうだった。実際、眠っていたのかもしれない。


だってオレは、夢を見た。

夢の中で、フェムトが、珍しく優しい口調で言った。



 もし…、ナギが言うように、11個目の流れ星にかけた、俺の願いが叶うっていうなら…。

…自分のことはほったらかしで、弟や妹の幸せばかりを考えている、バカで無鉄砲な俺の兄貴が…。

自分の幸せをつかむってことだよ…。




 …夢だろうか。夢だったかもしれない。

でも、この夢込みで、この夜を、オレは一生忘れることは無いだろう…。

  

星のアイキャッチ


 
 

 気がついた時、オレの目の前にあったのは、医療用の曲がった針を持ってオレの顔を覗き込む最愛の妹の、可愛い、そして怖い顔だった。
ああ、その針を、お兄ちゃんの顔に突き刺す気なんだなと思い、どうせ縫うならブラックジャックみたいにかっこよく縫ってくれ、と言ったら、…泣いてしまった。

 結局確かにバカな兄弟は、そろって何より大事な妹を散々心配させて、悲しませて。

理事さんの張り手より、愛しい妹の泣き顔の方が、正直ずっとずっと痛かった。
怒ったり泣いたりするなのをフェムトとふたりでなだめて、それから少しだけ、家のベランダで、三人揃って星を見た。

今まであまり良い思い出のなかったふたご座流星群。

ひとつひとつ出来事をたどれば、今年だって散々な目にあった。
フェムトもオレも結構なケガをして、なのを泣かせて。

それでも…。

記憶は甘く、…優しい。

この夜の思い出は、フェムトがこの家を去って行った後、きっとオレを支えるだろう。


…フェムト。
生きたいように、生きろ。
お前がどこにいてもいい。
何をしていてもいい。
元気でいてくれれば、それだけでいい。




また、一緒にふたご座流星群を見よう。
たとえ隣にいなくても、同じ星を見ることは出来る。

お前はきっとこれからも、なののために、10個の流れ星を探し続けるのだろう。
オレもきっと付き合うから。

そして、11個目の流れ星に、お前の前途を祈ろう。






ふたご座流星群の流れ星が、お前の旅の行く手を、



いつも、いつまでも、


明るく照らし続けるように…。



 
 


      

 2010/2/07脱稿

星のヘアライン

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