小項目「アシカと人間に心の交流はあるか」

星のヘアライン

  

 海獣(かいじゅう)ショーって、お好きですか?

ゴジラ?アンギラス?フォルムはキングギドラが一番?いやいや。怪獣じゃなくて、海獣。そもそもショーをするゴジラなんて、往年のファンが号泣します。ああ、ハリウッドゴジラなら、でんぐり返りをして餌をもらうくらいはしそうですけどね。海獣とは、アシカやセイウチ、トド、オタリア、アザラシなどの、海で生きる哺乳類のことですよ。

  
   イラスト ゴジラのシェーを実況するなのなぎ
 ※うさぎねこのナギとなののご紹介「ナビゲータのご挨拶」はこちら。
「うさねこストーリーズ」はこちら。
 

 動物園や水族園の動物たちは、飼育員に懐いているわけではない。餌をくれる人、として認識しているだけ。その関係性は「馴致(じゅんち)」というもので、円滑に世話をしたり、医療措置を適宜施すためのものでしかない。

…というお話を時々耳にします。まあ、ペットでは無いので、そういう接し方をしてはいけないという、動物園や、水族館の自戒、というところもあるのでしょう。あまり個人のトレーナーに依ってしまうと、管理も大変ですしね。

 以前見た海獣ショーを取り扱っていたテレビ番組では、トレーナーさんが、きっぱり「アシカは人には決して懐きません。彼らは非常に利口で、身体能力も高く、言うことをよく聞きますが、それは決して慣れているわけではなく、何をすれば、何をもらえるのかということを、理解しているだけです」と言い切っていました。

そうなんだー。心の交流はないんだーと、何とも言えない気分になりました。


 もとより、海獣ショーとはいったい何でしょう。海獣ショーは、水族館の華です。私も楽しみにしています。各施設趣向を凝らし、個性のある素晴らしいパフォーマンスを行なっています。知識を得ることも出来ますし、感動することさえあります。

 ちょっと前に行った話題の水族館では、観客がトレーナーと海獣にどれくらい面白かったか、得点を付けるしくみになっていました。海獣とトレーナーが、漫才のコンビのようになっていて、お客さんの笑い声が大きいと、トレーナーや海獣にごほうびがあるのだそうです。まあこの辺は、「表向き」かもしれませんが。

 トレーナーさんも皆さん芸達者で、ほとんど漫才を聞いているような気分になります。ホントに上手で、純粋に面白く見られます。トレーナーの皆さんは、口を揃えて「お客さんがいっぱい笑って、いっぱい拍手してくれると、僕のお給料が違ってくるんです!」と繰り返していました。

そうなんだー。水族館もM1方式かー。と、何とも言えない気分になりました。





   星マーク  
   

 さて、もう一度。海獣ショーとはいったい何でしょう。新旧江ノ島水族館の人気者、ミナミゾウアザラシのミナゾウくんと、飼育員さんの間には、他人が見ても深いつながりを感じました。




 
  写真「ミナゾウ新旧」

写真「、ミナゾウとキーパーさん」(キーパーさんのお顔は、少し加工させていただいてます)
   

 どうやったら、ミナゾウの、賢さや、やさしさ、その身体的特徴をお客さんに知ってもらえるのか、良く考えて、日々のふれあいや関わりの中からパフォーマンスを組み立てていることが、ほんの数分間のショーからも伝わってきました。深い信頼関係がなければ、巨体に下敷きにされるかもしれないパフォーマンスは到底出来ないでしょう。

 ミナゾウのあっかんべーで、お客さんは笑います。飼育員さんがミナゾウの鼻を伸ばし、「ゾウ」アザラシの何たるかを見せてくれ、お客さんが感心します。そして、ミナゾウの大きな目と、賢さと、コミカルな動作を覚えて帰ります。ミナゾウでっかかったねー。かわいかったねー。大きな目だったねー。鼻長かったねー。身体がすごく柔らかかったねー。背筋がものすごく発達していたねー。…知らず、観客は、愛すべき巨大なミナミゾウアザラシの特徴を、覚えて帰るのです。海獣ショーの目的は、笑わせること自体ではなく、その先にあるものだと私は思います。

 観客を笑わせたり、喜ばせたり、楽しませたりするのはその手段なのだと。笑うアシカも、透明ホースを使って餌を吸い上げるセイウチも、荷車を押して登場するカワウソも。観客に、この動物を覚えてほしい。この能力を、この特徴を知ってほしい。トレーナーのそんな願いが込められているのでしょう。また、そうであって欲しいと願っています。ミナゾウのパフォーマンスで、ミナミゾウアザラシの存在を知り、大好きになった人が、きっとたくさんいます。

 ミナゾウは、2005年10月4日に、急逝しました。その訃報はあまりにも突然で、多くのファンが悲嘆にくれ、長い間、献花台から花が途絶えることは無かったそうです。ミナゾウの一生は決して長くはなかったけれど、ミナゾウは、多くの人の心の中に生き続けます。ミナゾウの魅力と、そして、その魅力を引き出したショーと、ショーを創出した飼育員さんのおかげです。そこに、餌と世話だけのつながりしか無かったとは到底思えません。

   写真「ミナゾウ」  
 


星マーク 
 
 




 先日下田海中水族館に行ってきました。正直なところ、イルカが目的でしたので、海獣ショーをそんなに期待していたわけではありませんでした。ところがどっこい。こんなにすごいアシカショーを見るのは生まれて初めてでした。ああ、番外的な意味では、数年前の品川水族館のアシカショーも素晴らしかった。何と言っても、決して広くは無いプールに同居しているイルカが、アシカショーを度々邪魔をするのです。アシカがパフォーマンスをしているのに、イルカがプールに上がって、しゃちほこのようなポーズをとる、トレーナーがイルカをプールにぼちゃんと落とす。この攻防を繰り返しをしながらアシカショーが進められていました。あんなにショーで笑ったことはありません。もう一度、あの親しみのあるアットホームなショーが見たいものです。

 さてさて、本題(?)に戻りましょう。多くの施設で、アシカショーはイルカショーの前座的な役割を果たします。下田海中水族館のアシカショーは、イルカの手触りを瞬間忘れるほどに、感動しました。一日で同じショーを2回見ようと思ったのは、初めてでした。

 何がすごいって!水中でショーが行なわれるのです。ディーン・バナールとジョジョのようでした。 (すぐ、あ、あのことね。と思った方は同業者の可能性が高いですね。どちらの施設にお勤めですか?)ディーン・バナールとは、エリザベス女王の命を受け、ジョジョという孤独なイルカの世話をしているダイバーのことです。そんな命を下されたいと、多くのダイバーが思っていることでしょう。4ヶ月間もの旅行になんて、絶対行きません。(ディーンはけろっと行ってしまうのですよ。ジョジョを残して!)

 トレーナーの言うとおりにアシカは泳ぎまわります。まるで、仲良しの野生動物が二頭、戯れているように見えました。もちろんトレーナーから指示が出ているのでしょうが、何だか通じ合っているようで、言葉のいらない、美しい眺めでした。何より驚いたのは、4、5分あったと思われるショーの最中、トレーナーは一切アシカに餌を上げていなかったのです。少なくとも私には見えませんでした。

 トレーナーと海獣の間を繋ぐものが、餌だけだったとしたら、これほどまでに長い間、ショーを続けられるものでしょうか。そこには、確かな信頼関係があったように見えました。下田のディーンや、下田のジョジョが何人(何頭)いるかは分かりませんが、エリザベス女王もこれを見たらサーの称号をくださるかもしれません。

 アシカが人を信頼するなんてあり得ないのでしょうか?どこかで聞いたような言葉ですが、「あり得ないなんてことは、あり得ない」ですよね。 

 
  写真「下田懐中水族館アシカショー」 
    改めて、海獣ショーとはいったいなんでしょう。

 シナリオの出来や、音楽、設備、ナレーターのテクニック、様々なファクターがあります。ただ、海獣と、人間の交流を見せられた時こそ、どんなに凝った演出もシナリオでも適わない問答無用の感動を与えてくれるのだと、私は思います。

 シナリオライターでもある身としては、多少なりとも悔しがった方がいいでしょうか?いえいえ。私は新旧江ノ島水族館のミナゾウくんとトレーナーさんにも、下田海中水族館のアシカとトレーナーさんにも、にこにこ笑って、ばっさばっさと景気良く白旗を振りましょう。

もっともっと白旗を振るショーに出逢いたいものです。

 2009/12/01脱稿

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